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言語聴覚士の仕事内容やメリット・デメリット、なり方を詳しく解説!
普段、私たち人間は、ことばを用いてお互いの気持ちや考えを共有したり、おいしい食事を取ることで楽しく・健康的な生活を送っています。しかし、病気やケガ、交通事故による後遺症や、発達上の問題などで、ことばを話すことや、食べたり飲んだりする機能(摂食嚥下機能)に障がいを抱えるケースがあります。
そうした場合に必要になるのがリハビリテーションです。そして、話すことや聞くこと、食べることに問題を抱える人に対し、専門的なリハビリテーションを行うのが、「話す・聞く・食べる」ことのスペシャリストである言語聴覚士です。
本記事では、現役の言語聴覚士である筆者が、自身のこれまでの経験も踏まえて、言語聴覚士の主な仕事内容やメリット・デメリット、言語聴覚士のなり方について詳しく解説します。言語聴覚士の仕事に興味のある人、将来、言語聴覚士として働きたいと思っている人は、ぜひ最後までチェックしてみてください。
はじめに、言語聴覚士の仕事内容や主な勤務先など、言語聴覚士の基本情報をチェックしましょう。
言語聴覚士の仕事内容
言語聴覚士が対象とするリハビリテーションの領域は、失語症、高次脳機能障害、聴覚障害、ことばの発達の遅れ、声や発音の障害、摂食嚥下障害と多岐にわたります。また、小児から高齢者までと幅広い年齢層に対してリハビリテーションを行います。
言語聴覚士の主な仕事内容は、医師の指示のもと、障がいや症状に対する検査・評価、リハビリテーション計画の立案・実施、経過記録・報告書といった書類作成、カンファレンスへの参加など。
また、医師・歯科医師・看護師・理学療法士・作業療法士などの医療専門職や、ケースワーカー・介護福祉士・介護支援専門員などの保健・介護・福祉専門職、教員、心理専門職などと連携しながら、リハビリテーションチームの一員として仕事を行います。
言語聴覚士の有資格者数・年齢構成・男女比と主な勤務先
言語聴覚士は1997年に国家資格化され、2024年3月末時点の言語聴覚士の有資格者数は4万1,657人(日本言語聴覚士協会調べ)。なお、日本言語聴覚士協会に属する会員2万1,603人のうち、80%以上が20代から40代、全体の75%が女性です。
主な勤務先としては病院などの医療機関が最も多く、その他、介護・福祉施設や訪問、保健・教育機関など。また最近では、発達障害や教育分野など、小児に対するリハビリテーションの需要も増加しています。
言語聴覚士の仕事は、病気や障がいによって日常生活送ることに問題を抱えている人を支援する、とてもやりがいのある仕事です。ただ、他の職業と同様に、さまざまなメリットとデメリットがあります。
本チャプターでは、言語聴覚士のメリットとデメリットについて紹介していきます。
メリット①やりがいがある
言語聴覚士の仕事は、「日常生活を送ることに問題を抱える人たちのために働いている」という実感が湧きやすく、モチベーションを高く保ちながら仕事をすることが可能です。また、主治医の指示のもと、自身が評価・計画したリハビリテーションを受けた人の機能が少しずつ回復し、できることが増えていく姿を間近でみれたり、その人の自宅や職場などへの復帰にも貢献できたりするため、仕事における達成感や充実感を味わえます。
さらに、担当した人が障がいを抱えて厳しい現実に直面しながらも、出来るだけ前向きにリハビリに取り組む姿や、人生の大先輩である高齢者の方の価値観などから学ぶことも多く、そうして学んだことを自分自身の成長につなげられるのも魅力です。
メリット②ライフプランやワークライフバランスを考慮した働き方ができる
言語聴覚士の仕事は、基本的に日中業務であり、夜勤がなく体力的にも精神的にも負担が少ない傾向があります。そのため、長く働き続けることが可能です。
また、医療・介護業界の場合、出産や子育て、親・家族の介護などによる休暇の取得に理解のある職場が多いことや、一時的に職場を離れた場合でも、専門的な資格を保有しているので、職場復帰や再就職が比較的しやすいのも特徴です。自身のライフプランに沿った働き方ができるのも言語聴覚士のメリットといえるでしょう。
ちなみに、筆者が働く訪問の分野は、比較的有給休暇の取得がしやすく、週3~4日勤務や時短勤務など、さまざまな勤務形態を取り入れている職場が多くあります。ワークライフバランスがとれた働き方がしやすい点も押さえておきたいメリットです。
メリット③仕事のニーズが高く、将来性がある
2025年に団塊の世代が75歳以上になり、日本は、全人口の4人に1人が後期高齢者という超高齢化社会を迎えました。今後、医療・介護業界のニーズはさらに高まり、多くの人材が求められるはずです。
言語聴覚士の仕事も今後ますます必要になると予想されていますが、他のリハビリ職に比べるとまだまだ人手不足。今後もしばらくは需要の高い状況が続くでしょう。
また、AIの普及により、多くの仕事がAIに職を奪われる可能性がありますが、言語聴覚士の仕事は対人でのコミュニケーションが必須となるため、AIが代替する可能性は低いです。今後も高いニーズが期待でき、将来性の高い仕事である点も、言語聴覚士として働くメリットの一つです。
デメリット①高収入を得るのは難しい
言語聴覚士の平均年収は、職場や勤務年数などによって異なりますが、約420~440万円です。医療・介護保険による診療報酬制度の影響を受けるため、昇給率が高いとはいえず、全産業の平均年収と比較してやや低めです。年収を上げるためには、病院や施設、自身が務める組織内で役職に就くか、専門性を高めて講師業を行う、開業権のある医師や歯科医師、看護師などを雇ってデイサービスや訪問事業所を開業する、副業や異業種へ転職する、といったことが必要になります。
そうした背景もあり、最近では、小児の発達障害の分野で独立開業する、施設やオンラインを用いてリハビリを行う、オリジナル教材を作成・販売するなどして活躍の場を拡げている言語聴覚士が増えています。
デメリット②仕事内容が理解しにくく、世間的にあまり認知されていない
言語聴覚士はリハビリテーション専門職の一つですが、理学療法士や作業療法士など他のリハビリ専門職に比べるとまだまだ世間的な認知度が低いのが現状です。
リハビリテーションは、主に手や足などの身体障がいに対する運動のリハビリにおいてニーズが高く、医療や介護現場で働く言語聴覚士の数に比べると、理学療法士や作業療法士の数が圧倒的に多いです。
また、身体の障がいに対する運動のリハビリに比べて、ことばやコミュニケーションに対するリハビリは、一目見ても何をしているのか分かりにくく、同じ職場で働く看護師や介護士などにも理解されていないことが少なくありません。
ただ最近では、NHKの朝の連続テレビ小説で嚥下障害に対してリハビリを行う人物が登場するなど、以前に比べて世間的な認知は確実に高まっています。
デメリット③忍耐力が必要な仕事
リハビリテーションでは、失われた機能を回復するために、半年から数年間、場合によっては数十年から一生をかけてリハビリを行うケースもあります。ただ、加齢や再発等、病気や障がいが進行するリスクや、リハビリを行っても思うよう機能が回復しないことも。また、障がいを抱える本人やその家族がさまざまな困難に直面したり、不安な気持ちを抱えることも少なくありません。
言語聴覚士はそうした方々の気持に寄り添い、心理的なサポートを根気強く行う仕事のため、忍耐力が必要です。
また、言語聴覚士の資格取得後、実際に現場で働くためには自身の臨床能力を高める必要があります。そのため、就業時間外や休日などを利用して、自主的に研修や講習会に参加したり、学会発表を行ったりして学び続けなければなりません。この点も人によっては、言語聴覚士として働くデメリットといえるでしょう。
次に本チャプターでは、言語聴覚士にはどのようにしてなるのかを解説します。
言語聴覚士は医療関連の国家資格です。言語聴覚士になるには、法律で定められた教育課程を経て国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受ける必要があります。
試験日 | 毎年2月中旬 |
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試験地 | 北海道、東京都、愛知県、大阪府、広島県、福岡県 |
試験内容 | 基礎医学、臨床医学、臨床歯科医学、音声・言語・聴覚医学、心理学、音声・言語学、社会福祉・教育、言語聴覚障害学総論、失語・高次脳機能障害学、言語発達障害学、発声発語・嚥下障害学及び聴覚障害学 |
試験形態 | 筆記試験(5肢択一式) |
問題数 | 200問(午前中100問、午後100問) |
合格基準 | 120問以上 |
合格率 | 60~70% |
受験料 | 38,400円 |
国家試験の受験資格を得るには、言語聴覚士に必要な知識と技能の習得が義務付けられており、一般的には以下の3つのルートがあります。
なお、言語聴覚士養成所では、基礎・専門基礎科目として言語・コミュニケーション行動に関連する医学、心理学、言語学、音声学、音響学、社会科学など、専門科目として言語聴覚障害学総論、失語・高次脳機能障害学、言語発達障害学、発声発語・嚥下障害学、聴覚障害学などを学びます。
さらに、病院、施設やリハビリテーションセンター、小児の療育施設などで臨床実習を行い、言語聴覚障害がある方を支援するために必要な知識・技術等を修得。その後、毎年2月中旬頃に実施される国家試験に合格すれば、言語聴覚士の資格を取得できます。
言語聴覚士の仕事は、ことばを用いたコミュニケーションや食べることに問題を抱える人々のサポートをすること。そのため、「うまく話せない」「スムーズに食べることができない」といった辛い気持ちを抱える人たちを理解する「共感力」や「傾聴力」が求められます。
また、病気や障がいによる症状や、ちょっとした気持ちの変化など、どんな些細な反応も見逃さない「観察力」も必須。さらに、リハビリテーションに必要な知識や手技はもちろんのこと、病前の性格や趣味、生活状況、医療福祉や介護保険における各種制度・サービスに関する情報収集などを行う「情報収集力」も必要でしょう。
まとめると、言語聴覚士に必要なスキルは、「待つ」「聞く」「みる」「知る」がしっかりとできること。つまり、やさしくて思いやりがあり、我慢強く、人やさまざまな事に興味を示せる好奇心旺盛な人に向いています。
言語聴覚士は、話すことや食べる機能に対するリハビリテーションを行う仕事であり、私たち人間が、豊かに生活するうえで必要な支援を行うとてもやりがいのある仕事です。
ただ、他の職業と同様に、言語聴覚士の仕事にもさまざまなメリットとデメリットがあります。また、言語聴覚士になるためには、養成所での学習や臨床実習、国家試験の合格という、いくつかの関門を通過する必要があり、その道のりは決して容易ではありません。
ですが、自身の担当する患者さんが、少しでも話せたり、食べたりできるようになる姿を通して、誰かのために働いているという実感を持てることは、言語聴覚士として働ける最大の魅力です。
言語聴覚士の仕事に興味がある人や、将来、言語聴覚士として働きたいと考えている人は、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
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